兎の話
その昔、菩薩(釈尊の前世のことです)は兎として生まれ変わりましました。
その兎は、猿、キツネ、カワウソという三匹の友達と森の中に住んでいました。
兎は菩薩の転生でしたので、普通の動物と違って智慧がありましました。
彼らは、昼は各々えさを探しに別に行動していましたが、夜は一緒に集まりましました。
その時兎は・悪いこと、ずるいことをしてはいけないと戒の話を、また、自分だけ良ければいいという生き方ではなくて、他人のことも心配するべきですよと布施の話を、また、生きているものとして道徳的でモラルを守るべきですよと修行の話などを、よくしていました。
ある満月の日、兎は修行しようと思いました。
三匹の友人も誘いました。
皆、大変喜んで修行することに決めましました。
修行してもお腹が空くので、まずえさを探しておこうと思ったのです。
兎は、「今日は修行中だから、えさをひとりで食べるのではなく、誰かに一部をあげてから食べなさい」と、注意しましました。
そこで、カワウソが川で人が魚を釣ったものを見つけましました。
キツネは畑仕事の人々が食べ残した肉とチーズのようなものを見つけましました。
猿は木からマンゴーを取って来ましました。
兎は草を食べればよいので、食べ物を貯蔵する必要はありませんでした。
その代わりに、大きな悩みが出てきましました。
食べる前に布施をしなくてはならないと自分で決めたのに、草を乞うてくる人はまずいないでしょう。
三匹の友達の食べ物は人間も食べるので、簡単に施しをできるでしょう。
何か自分が偽善行為をやっているような気もしましました。
「偽善になってはたまらない。
誰かが食を乞うて来たら、この身体をあげます。
兎の肉を食べたがる人は、いくらでもいるでしょう」と、覚悟を決めましました。
兎は、修行のために命まで賭けましました。
天国(帝釈天)にいる天の王・サッカはこれに驚きましました。
皆が正直かどうか試してやろうと、乞食に変身して、一匹ずつ訪ねましました。
カワウソもキツネも猿も、喜んで自分のえさの一部ではなく、全部施しましました。
サッカは「後で来ますから」と言って、えさを返して兎のところに行きましました。
そして、「何か食べ物をください」と、兎に頼みましました。
兎は、「それは良かった。
誰にでも真似できないほどすばらしい施しをしますので、薪を拾って火をおこして下さい」と言いました。
サッカは自分の神通力ですぐ、ごうごうと燃え立つ火を作りましました。
兎は身体についている虫を落とすために身体を振って、火の中に飛び込みましました。
身体が丸焼きになると思っていたのに、この火は熱いどころか異常に涼しかったのです。
兎は乞食に尋ねます。
「善人よ、あなたの火は威勢がよいのですが、私の毛一本も燃やせるほどの熱はありません。
あまりにも涼しいのです」
サッカ天は答えて曰く、「賢者よ、私は乞食ではありません。
あなたの修行にかかる気持ちはどれほど正直かと試すために、天から降りたのです」。
サッカは、「善行為を行うことは、どれほど大事かと後世の人々に知らせてあげます」と思って、月に兎の形を描き遺しましました。
その時から、月にはウサギの姿が浮かぶようになったという事です。
日本にも、同じようなお話しがあります。