苦行者から脱落した者
役にも立たぬ苦行から離れ、安定した心の状態でこそ正しい真理を把握できるはずだ、と考えたのでした。
その時、瞑想しているシッタルダを、「苦行の道を離れたのに、自分を浄いと思っている」とからかうように歌う人が近づいて来ました。
シッタルダは、「私の信念を破壊しようとしても無駄です。私は多くの苦行僧以上の激烈な苦痛に堪えてきたし、これから猛烈な苦痛を受ける人でも私以上の苦痛は受けないでしょう。
しかし、この激しい苦行をもってしても、人智を超えた完全な、優れた知恵に達することはできません。真理を悟る道は他にあって、私は今それを探っています。」
と答えました。
多くの修行僧達は、シッタルダを苦行者から脱落した者として、誰も彼に近づこうとはしませんでした。
シッタルダはそのおかげで瞑想を邪魔されずにすむので、彼の側から苦行者が去って行くのを喜んでいました。
彼は、時折大樹の陰から出て町へ出向き、托鉢をしました。
ウルヴェーラーの町の人々は、彼に対して畏敬の念をもって接しました。
彼が王族の出である噂が広がると、一層シッタルダを尊敬するようになりました。
この町で金融業を営んでいるナムチは、シッタルダに関心を寄せた。
ナムチというのは”悪魔”と言う意味だが、彼は高利貸しの悪どい商売をしていたので、町の人々からこう呼ばれていました。
普段は欲張りでけちなこのナムチが、シッタルダに豪華な接待を申しでました。
バラモンの階級では、いかにお金を持っていても商工業者は低い身分で、しかもナムチは”悪魔”などと呼ばれていましたので、王族のシッタルダと縁を結び、町の人々の蔑視を見返したかったのでした。
しかし、贅沢な料理にも美しい娘にも、シッタルダは心を動かされませんでした。
「あなたの親切は、ありがた迷惑だ。あなたは私の欲望を燃え立たせようとしていますが、私は色や香りの誘惑からとうに脱け出しているので、そのご馳走から何も心を動かすものを感じない」と言って、ナムチの接待をことわって彼の家をでました。
ナムチは、シッタルダが彼を身分の低いカースト階級だから接待をこばんだのだと、ひがみました。
ナムチには4人の娘がいましたが、今度はこの娘達がシッタルダを誘惑して、彼と縁を結ぼうと画策を始めました。
しかし、この娘達の誘惑の計略は3番目の娘までことごとく失敗しました。
三人の姉達は、評判の高い美女で、その三人が熱烈な愛をささげたのに、シッタルダは一顧も与えず弾き飛ばしてしまいました。
一番下の末娘のクンカパーラーの番になりましましたが、彼女は姉達と違っていました。
シッタルダは、下層階級の子供達にも分け隔てなく接して、食物を分け与えて、一緒に食べているのに、富豪の食卓には見向きもしませんでした。
彼女は、シッタルダがどんな男なのか知りたくて、シッタルダのもとを訪れました。